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法律コラム

産後離婚する場合の注意点を解説!

出産は夫婦にとって大きな人生の転機ですが、産後の環境や心身の変化が夫婦関係に深刻な影響を与えることもあります。本コラムでは、産後離婚を検討する際に知っておきたいポイントを弁護士の視点から解説します。

 

1. 出産後の夫婦の関係

1-1 産後クライシス

出産後は、夫婦の状況に様々な変化が生じますが、そうした中で夫婦関係が悪化してしまうことがあります。産後の夫婦関係の悪化を指して産後クライシスと呼ばれることもありますが、産後クライシスは出産後3年以内に多く発生するとされています。

産後クライシスは、夫婦の努力や時間の経過に伴って解決することもあれば、場合によっては別居や離婚を考えるほど深刻な状態になってしまうこともあります。

 

1-2 主な原因

産後クライシスの原因を一概に定めることはできませんが、一般的には、以下の事情が複数絡み合って発生するものと考えられています。

  • ホルモンバランスの変化
  • ライフスタイルの急激な変化
  • 夫婦間のコミュニケーション不足
  • 育児、家事に対する考え方の違い

 

2. 産後クライシスになってしまったら

一言で産後クライシスといっても、前述のように様々な原因が絡み合って生じるものであり、夫婦関係の変化も千差万別となります。

そのため、そもそも解決できるのか、また、解決できる場合にどのような解決方法が良いのか等、検討するべき事項も多岐にわたります。

本コラムでは、産後クライシスによる影響が大きく、離婚を検討されている方に向けて手続を解説しています。もっとも、産後クライシスは原因によっては一時的なものである可能性もあるため、重要なのは、解決手段について感情的にならずに冷静に判断することであるといえます。

 

3. 離婚の手段

産後離婚に限られませんが、夫婦が離婚する際の手段には、夫婦同士の(場合によっては第三者も交えた)話合いによる「協議離婚」、裁判所を利用する「調停離婚」「裁判離婚」があります。

 

3-1 協議離婚

協議離婚では、夫婦のお互いが離婚することに同意しており(場合によっては親権の合意なども含みます。)、それぞれが離婚届に署名・押印して役所に提出すれば、離婚が成立します。この協議離婚では離婚の理由は問われず、夫婦が合意しさえすれば離婚が成立する点で、後に述べる裁判離婚とは異なります。

※裁判離婚においては、離婚の理由が必要とされています。この離婚の理由のことを「法定離婚事由(原因)」を呼びますが、法定離婚事由は常に認められるわけではありません。

産後クライシスであったとしても、その内容によっては法定離婚事由が認められないことも考えられます。そのような場合にも、協議離婚であれば離婚を成立させることが可能となります。
なお、離婚届には、離婚の合意として夫婦が署名押印するほか、子どもがいる場合には親権をどちらが持つかも記載します。そのため、親権については併せて協議することも多いかと思います。
もっとも、親権の他にも、財産分与や養育費など、離婚の際に併せて決めておくべきことがいくつかあり、その具体例は後述のとおりです。これらの取決めについては、言った言わないの問題になることもあるため、公正証書にしておくことが望ましいといえます。

 

3-2 調停離婚

離婚調停とは、裁判所を利用する手続の一つですが、裁判と比較すると、当事者間の合意が重視されているといえます。具体的には、調停委員会(裁判官や一般市民から選出される方々により構成されています。)が当事者夫婦の間に入り、双方の話を調整して、離婚や親権、財産分与などの解決を図る手続となります。

調停において夫婦の双方が合意すれば、その合意した内容で調停成立となります。その場合には、当事者が合意した内容が「調停調書」という書面となりますので、言った言わないの問題にはなりにくいといえます。

しかしながら、調停離婚も当事者夫婦の双方が合意して成立するものであるため、どちらか一方でも内容に同意しなければ、不成立となってしまいます。

※調停において、わずかな条件の違いによって双方が合意できない場合などは、裁判所 が条件を定めて離婚を成立させる「審判離婚」という手段が採られることもあります。もっとも、審判離婚になることはあまり多くなく、合意ができない場合には次に述べる「裁判離婚」になることが多いといえます。

 

3-3 裁判離婚

調停が不成立に終わった場合、裁判離婚を検討することになります。調停離婚と同様に、裁判離婚も裁判所を利用する手段となります。

これまで述べてきたように、協議離婚や調停離婚は当事者間の合意をもって成立するものです。一方で、裁判離婚は、裁判所が離婚の成否及びその条件について判断し、当事者夫婦の合意がなくても強制的にこれらを定める手続となります。

すなわち、協議離婚や調停離婚が「当事者」が「合意」を目指す手続であるのに対して、裁判離婚は「裁判所」が「離婚事由の有無(及びその他の条件)を判断する」手続である、という違いがあります。

そして、裁判所が離婚を認めるための理由は、次のとおり民法770条1項に定められています。これらを「法定離婚事由(原因)」といいます。

  • 配偶者に不貞行為があった場合
  • 配偶者から悪意で遺棄された場合
  • 配偶者の生死が3年以上明らかでない場合
  • 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合
  • 上記の他、婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合

裁判離婚では、いずれかの法定離婚事由があることを、離婚を求める人が明らかにしなければなりません。

弁護士のサポートを受けながら、円滑な解決を目指しましょう。

 

4. 産後クライシスで離婚する場合

4-1 産後クライシスと離婚事由

上述した法定離婚事由には、「産後クライシス」の文字はなく、産後クライシスそのものは法定離婚事由には該当しません。もっとも、産後クライシスの原因や影響を紐解いていった際に、法定離婚事由に該当する場合があります。

実際に、産後クライシスによる離婚が認められるのは、法定離婚事由のうち「5. 婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する場合が多いといえます。

 

4-2 「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは

「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは、婚姻関係が破綻して、共同生活の回復の見込みがない場合を指すといわれています。裁判所は、婚姻中の当事者夫婦の行為や態度、婚姻継続意思の有無、子どもの有無や状況、双方の年齢・職業・資産・収入など、一切の事情を総合的に考慮して判断します。

具体的に裁判で認められた例は、相手方からの暴力や虐待、相手方らの重大な侮辱、失業や浪費・借財等の経済的理由、相手方の犯罪行為、相手方の親族との不和、相手方の過度の宗教活動、相手方の性的異常、相手方の疾病・身体障がい、夫婦の性格の不一致、等が挙げられます。ただし、いずれも程度によります。

 

4-3 産後クライシスと「婚姻を継続しがたい重大な事由」

上述した事情に該当する場合には離婚事由があると認められる場合があり、これは産後クライシスにおいても同様です。

ただし、感情的なすれ違いや不満、一時的に喧嘩が増えている等の事情だけでは、離婚事由があるとみなされる可能性は高くないといえます。

離婚事由があるか、認められるかの見込みについては、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

 

5. 離婚をするときに決めること

これまで産後離婚について述べてきましたが、離婚は夫婦関係の解消だけを決めればいいものではありません。特に、子どもの将来にも大きな影響を及ぼすものであるため、離婚自体に併せて、諸々決めておかなければなりません。本項では、離婚をする際に取り決めるべきことを記載します。

※なお、子どもは未成年者の場合を想定しています。

5-1 親権と監護権

親権とは、子どもの日常生活の世話や教育をする権利(「(身上)監護権」といわれます。)と、子どもの財産を管理したり契約を代理したりする権利(財産管理権といわれます。)を合わせた権利といえます。婚姻中であれば、通常は夫婦が共同して親権を行使しています。

一方で、離婚後の共同親権は認められておらず(令和7年3月時点)、離婚後の親権はどちらか一方の親が持つことになります。そのため、離婚をする際には、子どもの親権をどちらが持つか決めなければなりません。逆に言えば、子どもの親権が定まらないと離婚をすることはできません。

夫婦間で離婚すること自体に争いはないものの、子どもの親権をどちらが持つかで揉めているために離婚もできない、というパターンも多いです。

当事者間で親権をどちらが持つか合意できない場合には、裁判所が定めることになります。その場合には、子どもの年齢やこれまでの生活環境、親の育児能力などが考慮されることになります。

※民法改正について:令和6年5月17日、民法の一部を改正することが決まり、遅くとも令和8年までには施行されることになりました。この民法改正では、離婚に直面する子どもの利益を確保する観点から、子どもの養育に関する父母の責務を明確にし、親権や養育費、親子交流等の規定を見直すことになりました。

この改正でよく話題になるものとして離婚後の共同親権の導入が挙げられます。

前述したとおり、現在の日本では、父母が結婚している間は、通常は父母が双方とも親権を持ちます(共同親権)。父母が共同して子どもの日常生活の世話や教育をし、子どもの財産を管理したり契約を代理したりします。

一方で、現在(令和7年3月)の民法では、父母が離婚した後はどちらか一方しか親権を持つことが認められていません(単独親権)。そのため、子どもの日常生活の世話や教育、財産管理は、親権を持つ親が専ら単独で行使できることになります。

これらを前提として、父母の離婚後も、子どもの転居や進学先の決定、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、財産管理について父母が共同して行えるようにするのが今回の改正となります。とはいえ、子どもの日常生活の世話等(監護及び教育に関する日常の行為)については、同居している親が行うことが現実的ですので、依然(同居している親が)単独で行使できるものとされています。急迫の事情(DVや虐待からの避難、緊急の医療など)がある場合も、それぞれの内容から単独で行使できます。

なお、従前どおりの単独親権についても、当事者間の合意(協議離婚・調停離婚)や裁判所の判断(裁判離婚)で認められることがありますので、共同親権という選択肢が増えたともいえます。

離婚後の共同親権については、メリット・デメリットのどちらも考えられますが、いずれも単独親権との表裏といえます。

これまでの単独親権は、前述のとおり父母の離婚時に親権者を決めなければならなかったため、離婚自体に争いがなくても親権が決まらずいつまで経っても離婚できないことがありました。裁判離婚(および親権者の決定)までは、とても長い期間がかかりますが、これは親だけでなく、子どもからしても負担が大きいといえます。また、離婚後には父母のどちらかが単独で親権を行使するため、親権を有さない親は現実的に子育てに関与できない一方で、親権を行使する親に負担が偏ることもありました。

共同親権では、これらの問題を一定程度解決できるといえます。双方が共同親権を争わなければ、これまでよりもスムーズに離婚が成立する可能性があります。また、子どもとの関わり合いについても、これまでよりも双方と関わることができるといえます。

しかしながら、デメリットとして、離婚後も元夫もしくは元妻と、子どものことに関して、単独親権の場合よりも頻繁に連絡を取り合う必要があります。また、子どもの転居や進学先の決定、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、財産管理については、父母が共同して決定しなければならないため、単独親権の場合と比べて一つ一つの決定に時間がかかるといえます。

結局のところ、離婚後の親権は単独と共同のどちらがいいかは一概には決められず、子どもの状況や関係性を考えながら決める必要があるといえます。

 

5-2 養育費

養育費とは、子どもの監護や教育のために必要となる費用のことです。

養育費を支払うのは親としての義務ですので、父母が婚姻してるか離婚しているか、実際に子どもを監護しているか否かに関わらず発生するものとなります。

婚姻中であれば、一般的に、養育費は共同の家計から出すことになります。

一方で、離婚後においては、親権を持つ親は子どもとの日常生活のなかで支出していくことになりますが、親権を持たない親は子どもの養育費として相当額を(子どもの代理人としての)親権者に渡すことになります。

親権と異なり、養育費を決めていなくても離婚自体を成立させることはできますが、後の紛争を避けるためにも、離婚をする際に養育費の金額や支払方法を明確に決めておくべきです。

なお、養育費を決める際には、基準として裁判所が定める養育費算定表を参考にすることが一般的です。

参考:養育費算定表|裁判所

 

5-3 面会交流

親権には、子どもの日常生活の世話や教育をする権利(監護権)が含まれることを前述しました。そのため、親権を持つ親が子どもと同居し、親権を持たない親は子どもと離れて暮らすことになります(離婚後も父母が同居する場合などの例外はあります)。

もっとも、親権を持たないからといって子どもと一切会えないわけではなく、親権を持たない親も、離婚後に子どもと会ったり一緒に過ごしたりすることが認められます(虐待していた場合などの例外はあります)。これを面会交流といいます。

面会交流についても、面会の頻度や方法、1回あたりの時間等について、離婚時に決めておくことが、後の紛争防止の観点から好ましいといえます。

 

5-4 財産分与

婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産は、離婚に際して公平に清算することになります。これを(清算的)財産分与といいます。

夫婦が協力して築いた財産といえるのであれば、夫婦共有名義のものに限られず、一方のみの名義であったとしても財産分与の対象に含まれます。

ただし、夫婦の一方が、結婚する前にすでに持っていた財産や、相続によって取得した財産については、夫婦が協力して築いた財産とはいえないため、財産分与の対象とはなりません(これを「特有財産」といいます。)。

財産分与についても取り決めなくても離婚自体はできますが、やはり紛争防止の観点から、どの財産を分与対象とするのか/割合はどうするのか、について、離婚の際に併せて決めることが好ましいといえます。

 

5-5 年金分割

婚姻期間中に一方が納付していた厚生年金や共済年金について、他方が一定割合を分割請求できる制度です。65歳未満の場合、年金自体は離婚後に受け取ることになりますが、その受け取る金額が分割されます。

財産分与と異なり、分割対象(婚姻期間中に納付した年金保険料に対応する部分)や分割割合(50%が通常といえます。)で争いになることはそれほど多くはありませんが、離婚に際して確認や請求をしておくことが望ましいといえます。

 

5-6 慰謝料

慰謝料は、相手から受けた精神的苦痛に対して支払われるお金ですが、婚姻期間中に精神的苦痛を受けたとして、離婚の際に請求がなされることがあります。

以下のような場合には慰謝料が認められる可能性があります。ただし、いずれも必ず認められるわけではなく、受けた精神的苦痛の程度によります。

  • 不貞行為:配偶者が他の異性と不倫関係を持つ行為
  • 悪意の遺棄:生活費の不払い、家に帰らない、育児を完全に放棄するなどの行為
  • モラルハラスメント:言葉や態度で継続的に精神的苦痛を与える行為

離婚を決意し、婚姻期間中に相手方から精神的苦痛を受けていた場合には、慰謝料を請求するかについても、併せて検討しておくとよいでしょう。

 

6. まとめ

産後離婚は、夫婦関係が大きく変化する時期に起こりやすいものといえます。後の人生に大きな影響を及ぼすため、極力感情的にならずに、冷静に対応することが重要です。特に、親権や養育費などは子どもの将来に影響を与える事項ですので、慎重に話し合いを進める必要があります。

離婚を検討する際は、弁護士などの専門家に早めに相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。一人で悩まず、力を借りて円満な解決を目指しましょう。

弁護士法人KTGでは、離婚に関するご相談を受け付けております。

産後離婚を検討中の方は、弁護士法人KTGにご相談ください。

 

 

 

この記事の監修者

弁護士 本多 将大

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