- 特集
- 2026.08.31
借地権の相続に関する手続きと注意するべき点
目次
1 借地権とは
1-1 概要
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権のことをいいます。平たく言うと、建物を(建てて)所有するために、他人から土地を借りる権利のことです。土地を使わせてもらう代わりに、いくらか地代を支払うことになります。
土地を借りる人のことを「借地権者」、土地を貸す人(地主さん)のことを「借地権設定者」といいます。
1-2 借地権が設定される経緯
すでに土地を所有していて、その土地上に建物を建てる場合などは、借地権は不要です(自分の土地ですから、自由に使うことができます)。
一方で、土地を所有していない場合は、土地を購入したうえで建物を所有するほか、借地権を設定して(土地を購入せずに借りることで)建物を所有する選択もありえます。
多くの場合では、地代を払って借地権を設定するほうが、土地を購入するよりも安く済むなどのメリットがあると言われます。とはいえ、借地権の継続年数や地代によっては一概に安いとはいえませんし、そもそも地主が借地権の設定に応じてくれないこともあるかと思います。
1-3 地上権と賃借権
借地権には、上述のとおり地上権というものも含まれますが、地上権はどちらかというと公共事業等の大規模な土地利用に用いられるのが中心といえます。公共事業等でない個人間の取引(一軒家を建てる場合など)では、通常は土地の賃借権を設定することが大半です。そこで本コラムでは、借地権のうち、土地の賃借権を主として解説します。
2 借地権は相続の対象となるのか
2-1 概要
上述のとおり、借地権は、建物所有のために土地を借りる権利です。
借地権が存続している間には、様々な問題(立退きや解約など)が生じることがありますが、本コラムでスポットを当てるのは、借地権者が亡くなった場合についてです。
2-2 相続の有無
借地権者が亡くなった場合、借地権はどうなるのでしょうか。
知り合いだからこそ土地を貸したという事情がある場合などは、借地権設定者としては、借地権者が亡くなったなら借地権も消滅する、と考えるかもしれません。
しかし、実務では、借地権者が亡くなった場合でも借地契約は当然には終了せず、相続人がこの権利を相続するとされています。亡くなった方の現金や預金、所有する不動産を相続することと同様に、借地権も相続の対象になる、ということです。
したがって、借地権者の相続人の方は、土地を返さなければならないというわけではなく、その土地を引き続き使うことができます。
2-3借地契約の内容を確認する
借地契約には契約期間や更新条件、建替えや増改築に関する制限などが定められていることがあります。特に、借地権は普通借地権と定期借地権の2種類があり、それぞれ更新の有無や契約期間等に違いがありますので、相続後は速やかに契約内容を確認しておくことが重要です。
3 借地権相続の流れ
借地権の相続といっても、通常は、他の相続財産と併せて話合いが行われることになります。そこで、本項ではまず相続の流れを簡単に解説します。
3-1 相続人の確定
相続手続きを進める際には、まず誰が相続人になるかを調べ、相続人を確定する必要があります。具体的には、亡くなられた方(被相続人)の戸籍を取り寄せて、相続人を確認することが一般的です。
相続人が漏れていた場合などは、後述する遺産分割協議が無効になるおそれがあるため、慎重に確認することが必要です。
3-2 相続財産の確定
亡くなられた方がどのような財産を持っていたのか(相続財産・遺産)を調査します。一般的には、現金や預貯金、不動産などが調査対象になります。
また、併せて負債の調査も行います。
相続財産に漏れがあった場合には、後から判明した財産について、後述する遺産分割協議を追加で行わなければならなくなることもあるため、こちらも慎重な確認が必要となります。
3-3遺言書の有無確認
被相続人が遺言書を作成している場合には、基本的には遺言の内容に従って相続が行われることになります(遺留分などの例外もあります)。
そのため、相続開始後は速やかに遺言書の有無を確認することが重要です。
3-4 遺産分割協議
遺言書がなく相続人が複数いる場合や遺言書に書かれていない相続財産があった場合には、遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議は相続人同士の話合いですが、この話合いによってどの相続人がどの財産を承継するかを決めることになります。
協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成することが通常です。
※例えば、Aさんが亡くなり、子であるBさんとCさんが相続人、Aさんの相続財産が、土地(評価額1000万円)と預貯金(1000万円分)と現金500万円であったとします。
BさんとCさんが、Aさんの相続財産を1:1で分けようと考えた場合、それぞれの取得額は1250万円((1000万円+1000万円+500万円)÷2)となります。
分け方としては、Bさんが土地と現金250万円、Cさんが預貯金全てと現金250万円、といったものが考えられます。
4 借地権の相続①相続人同士
相続の一般的な流れは上述のとおりであり、相続財産に借地権が含まれる場合も、流れ自体は基本的に同様です。以下では、特に借地権について注意すべき点を解説します。
4-1 建物と借地権
上述のとおり、借地権は相続財産となり、相続の対象となります。したがって、預金や不動産を相続人の誰が承継するかと同様に、借地権についても相続人のうち誰が承継するかを話し合わなければなりません。
とはいえ、一般的には、借地上の建物を取得する相続人が、借地権も取得することになります(別々の相続人が借地権と建物を別々に相続することはほぼないといえます)。
そのため、通常は、話合いの関心は借地上の建物を誰が相続するかであり、借地権は建物に付随するもの程度の認識であることも多いかと思います。
4-2 借地権の価値
上述のとおり、話合いの関心は建物にあることが多いのですが、借地権の評価については慎重に判断しなければなりません。
というのも、借地権は、土地の所有権ではありませんが財産的価値がある権利です。
借地上の建物が古く、建物自体にはほとんど価値がないように見えても、借地権には高額な価値が認められることがあります。そのため、建物を取得する相続人と取得しない相続人との間で、借地権をどのように評価するか争いになることがあります。
具体的な借地権の財産的評価は、実売価格を基準にしたものや、後述する借地権割合による評価額など様々なものがあります。
どのような評価基準を用いても、都市部の借地権はかなり高額になることもありますし、都市部でなくても想定以上に高額な評価になることがあります。
人から借りているという状態について、財産的価値があるとか高額な価値があるといった印象は持ちづらい方も多いかと思いますので、注意が必要です。
相続財産に借地権が含まれる場合は、借地権に価値があることを念頭に、他の相続財産とのバランスを考慮しながら分割方法を決める必要があります。
4-3 借地権割合
借地権の評価方法の一つとして「借地権割合」というものが挙げられます。これは土地の価値に対して借地権の価値が占める割合のことを指し、本来は税の計算において使われる基準ですが、遺産分割や売却のシーンでも参考として使われることがあります。
借地権割合を用いた相続税評価では、土地の自用地としての評価額に借地権割合を乗じて借地権を評価します。例えば、土地の自用地としての評価額が5000万円で、借地権割合が60%であれば、当該土地の借地権の価値は3000万円(5000万円×60%)と評価されます。
借地権割合は地域によって異なり、国税庁が公表する路線価図等で確認できます。土地の価格が高く、借地権割合も高い地域では、借地権の評価額が高額になることがあります。
実際の遺産分割協議において、この評価基準を用いて話合いをするかは事案によりますが、一つの参考として把握することは有益であるといえます。
5 借地権の相続② 借地権設定者(地主)
相続人が複数いる場合には、まず相続人間で借地権を維持するのか、それとも売却等により処分するのかについて方針を決める必要があります。
ここでは、借地権の帰趨について相続人全員の意見が一致した場合や相続人が一人の場合について説明します。
5-1 借地権を維持する場合
上述した遺産分割協議において、相続人の誰が借地権(と建物)を相続するかを決めることになりますが、承継する方が決まった場合には以下の注意点があります。
(1)地主の承諾は不要
相続以外のシチュエーションから説明します。
借地権者が、転居などによって所有する建物を売りたい、と考えたとします。この場合、借地権者は建物とセットで借地権も売却しなければなりません(借地権がなければ、建物を所有すること自体ができなくなってしまうため)。
このようなケース、すなわち借地権者の意思によって借地権を別の人に譲渡する場合は、法律上、借地権設定者(地主)の承諾が必要とされています。地主としても、自分の知らない間に、自分の土地に知らない人が住んでいたら困惑するためです。
一方で、相続によって借地権者が変更となる場合(例えば、借地権者Aさんが亡くなり、Aさんの子であるBさんが相続する場合)は、借地権設定者の承諾は不要とされています。相続は借地権者の意思による譲渡ではなく、法律上当然に生じる権利承継であるとされているためです。仮に地主が反対したとしても、借地権の相続を拒否することはできません。
とはいっても、今後の地代の支払いや契約更新などを円滑に行うため、相続後は地主へ連絡しておくことが望ましいでしょう。
(2)地代の支払義務も承継する
借地権は、地主に地代を支払うことで土地を利用することができる権利です。そのため、借地権を相続した場合は、土地を利用する権利だけでなく、地代を支払う義務も引き継ぐことになります。
5-2 借地権を手放したい場合
相続人の方々が、すでに自分の建物を持っていたり、遠方に住んでいて管理できない場合など、誰も建物・借地権を引き継ぎたくないケースもあるかと思います。
このような場合はどのような選択肢があるでしょうか。借地権は土地の所有権ではなく、地主との契約によって成り立つ権利であることから、不動産を所有している場合と比べて、処分方法に一定の制約があります。
(1)地主へ返還する
検討しやすい選択肢の一つです。
もっとも、借地権者が一方的に借地権を放棄することは必ずしも容易ではありません。
というのも、借地契約を終了させる場合には、契約上の解約条件を確認するとともに、建物を解体して土地を返還するのか、建物を残したまま返還するのか、解体費用を誰が負担するのかなどを地主と調整する必要があります。
そのため、地主と協議を行い、借地契約の終了条件や建物の取扱いについて合意したうえで返還することになります。
また、上述のとおり借地権は財産的価値を有するため、返還という手段が適切かはよく検討する必要があります。
(2)地主へ売却する
借地権は財産的価値を有する権利であるため、地主に買い取ってもらえる場合があります。地主としても、借地権が消滅すれば自由に土地を利用できるようになるため、条件次第では買取りに応じることもあります。
もっとも、売買価格については当事者間での調整が必要となり、必ずしも借地権の評価額どおりに買い取ってもらえるとは限りません。
(3)第三者へ譲渡する
借地権と建物をセットで第三者へ譲渡し対価を得る、という方法もあります。
もっとも、上述したとおり、相続でない場合の借地権の譲渡は、地主の承諾が必要とされています。そのため、まずは地主との協議が必要となります。
なお、場合によっては地主から承諾料の支払いを求められることもあります。
(4)共同売却
借地権と底地を一体として第三者へ売却する方法もあります。これを一般に「共同売却」と呼びます。
買主としては土地の完全な所有権を取得できるため、借地権だけを売却する場合と比較して、より高額で売却できる可能性があります。
そのため、地主が協力的である場合には、有力な選択肢の一つといえます。
5-3 地主が協力してくれない場合
前項のうち、借地権の売却や処分を希望していても、地主が承諾してくれないことがあります。
そのような場合であっても、必ずしも借地権を処分できなくなるわけではありません。
借地権の譲渡について地主の承諾が得られない場合であっても、一定の場合には裁判所へ申立てを行い、地主の承諾に代わる許可を得ることができる場合があります。これは「借地非訟」と呼ばれる裁判所手続によって行われます。
地主の承諾に代わる許可を得ることができれば、地主の承諾がなくても借地権の譲渡を進めることが可能になります。
地主との話合いがまとまらない場合には、有力な解決手段となります。
6 その他の注意点
6-1建物の相続登記
土地賃借権は登記することもできますが、一般的にはあまり行われていません。ただし、仮に土地賃借権が登記されている場合には、相続登記を行う必要があります。
一方で、(土地賃借権が登記されていない場合であっても、)土地上の建物については、登記がされていることが通常といえます。そのため、借地上の建物についてはほとんどの場合において相続登記が必要となります。
なお、令和6年4月からは相続登記が義務化されているため、期限内(不動産の取得を知った日から3年以内)に手続きを行わなければなりません。
6-2 相続放棄を検討すべき場合もある
相続財産を全体として見たときに、マイナスの財産(借入金やローン等)がプラスの財産(現金や預金等)を上回る場合があります。 借地権に財産的価値があっても、相続財産全体をみて、状況によっては相続放棄を検討すべきケースもあります。相続放棄には期限(相続の開始があったことを知った時から3か月以内)があるため、早めに専門家へ相談することが重要です。
6-3 相続税
借地権は相続税の課税対象です。
都市部では借地権割合が高く設定されていることが多く、予想以上に評価額が高くなる場合があります。相続税申告の要否については税理士へ確認するとよいでしょう。
7 まとめ
借地権は相続財産に含まれるため、借地権者が亡くなった場合には相続人へ承継されます。相続による承継について地主の承諾は不要ですが、相続人の確定、遺産分割協議、建物の相続登記などの手続きを適切に進めなければなりません。
また、借地権を相続した場合には地代の支払い義務や借地契約上の制限も引き継ぐことになります。さらに、相続税や将来の売却に関する問題も生じるため、慎重な対応が求められます。
借地権の相続は一般的な不動産相続よりも権利関係が複雑であり、地主との関係も考慮する必要があります。相続手続きや遺産分割に不安がある場合には、早い段階で弁護士へ相談することで、トラブルを未然に防ぎながら円滑な相続を実現することができるでしょう。
弁護士法人KTGでは、相続に関するご相談を承っております。
ぜひお気軽にご相談ください。