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法律コラム

戸籍制度と離婚について

多くの方が「戸籍」という単語を聞いたことがあると思いますが、実際に戸籍(の写し)を見る機会はそれほど多くありません。もっとも、私たちの氏(苗字・姓)など、実は戸籍は日常生活と密接な関係があるものといえます。

本稿では、離婚と戸籍について、弁護士が詳しく解説します。

1. 戸籍とは

1-1. 概要

戸籍とは、人が生まれてから亡くなるまでの親族関係等を証明する公的な制度であり、それを写した書類が戸籍謄本といわれています。戸籍には、夫婦関係や親子関係のほか、生年月日や婚姻日、戸籍の所在地(本籍地と呼ばれます。)などが記載されています。

1-2. 戸籍の基本的なルール

現在の戸籍制度のもとでは、同じ戸籍には、①一組の夫婦と、②夫婦と氏を同じくする子のみが入る(戸籍法6条)という大原則があります。以下、それぞれ解説します。

(1)一組の夫婦について
まず、夫婦は(結婚している間は)同じ戸籍に入ることになります。実務では、婚姻届を役所に提出することで、新たに夫婦2人の戸籍が作られることになります。
なお、現在の日本の戸籍制度においては、結婚しているのであれば夫婦は同じ戸籍に入らなければなりません。そのため、結婚しているにもかかわらず夫婦が別々の戸籍にいることはできません。
また、一つの戸籍に2組以上の夫婦が入ることはできません。例えば、父Aと母B、子Cが同じ戸籍に入っていたとします。この場合に、CがDと結婚したとしても、DはABCが入っている戸籍に新たに入ることはできません。同じ戸籍内にABとCDの二組の夫婦が存在することになってしまうためです(また、DはAやBの子ではないため、この点からもABの戸籍に入ることはできません)。
そのため、Cは、ABの戸籍を抜けて、Dとともに、新たにCDのみの戸籍を作成することになります。
そして、夫婦が離婚した場合には「一組の夫婦」ではなくなりますので、同じ戸籍に入り続けることはできません。後述しますが、この場合には筆頭者ではない方が、戸籍から抜けることになります。
 

(2)筆頭者について
戸籍には「筆頭者」という概念があります。筆頭者とはその戸籍の代表者のようなものとお考えいただければと思います。
実生活に影響がある点として、同じ戸籍に入っている人は、全員が、筆頭者の氏を名乗ることが挙げられます。
前述したとおり、結婚をする際には夫婦で新たに戸籍を作成することになりますが、このときに筆頭者を決めなければなりません(婚姻届に「婚姻後の夫婦の氏」という欄があります。)。
夫が筆頭者になるのであれば、妻は夫の氏を名乗ることになります。一方で、妻が筆頭者になるのであれば、夫は妻の氏を名乗ることになります(一般に「婿入り」と呼ばれます)。なお、本稿執筆現在の日本においては、90%以上の夫婦が夫を筆頭者とし、夫の氏を名乗っています。
 

(3)氏を同じくする子について
さて、夫婦に子どもが生まれた場合、出生届を役所に提出することで、生まれた子どもは夫婦の戸籍に入ることになります。前述したとおり、同じ戸籍に入っている人は、全員が筆頭者の氏を名乗ることになるため、子どもは夫婦の(筆頭者の)氏を名乗ることになります。
「子」については、実子のほか養子も含まれます。
また、必ずしも夫婦双方の子である必要はなく、夫婦のいずれかと親子関係にあれば、入籍に必要となる手続は異なりますが、基本的には同じ戸籍に入ることができます。いわゆる連れ子の場合などがこれに当たります。
※もっとも、連れ子の場合は、再婚相手と子どもが養子縁組をして、戸籍上夫婦双方の子どもとすることが多いかと思います。
以上とは異なり、夫婦のどちらの子どもでもない者は、その夫婦の戸籍に入ることはできません。赤の他人であれば当然ですが、孫も入ることはできません。孫は、夫婦の子どもの子どもに当たりますが、夫婦と養子縁組をしない限りは夫婦の(直接の)子どもとはなりません。
したがって、一つの戸籍に入ることのできる親族は、親と子ども(養子も含みます。)の二代までということになります。
なお、子どもは、結婚した場合には結婚相手と新たな戸籍を作成することになるため、結婚の際に親の戸籍から外れることになります。また、子どもは、婚姻していなくても成年していれば、親の戸籍から抜けて自分ひとりの戸籍を作成すること(「分籍」といいます。)もできます。

 

2. 離婚と戸籍

2-1. 夫婦と戸籍

前述したとおり、離婚した場合には、元夫婦は同じ戸籍に入り続けることはできません。この場合、元夫婦の戸籍の筆頭者はそのまま婚姻時の戸籍に残り、筆頭者でない方がその戸籍から出ていくことになります。
戸籍から出ていく方は、㋐結婚前の戸籍(親の戸籍など)に戻るか、㋑自分ひとりのみの新たな戸籍を作成することになります。
※㋐が原則とはいわれていますが、㋑に条件があるわけではありません。㋐と㋑のどちらにするかは、離婚届に記入する欄(「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄)があるので、離婚届を記入する際に選択することになります。
もっとも、後述しますが、子どもの戸籍を移すことも検討している場合には、新たな戸籍を作成することの方が多いといえます。

㋐結婚前の戸籍に戻る場合は、それに伴って結婚前の氏に戻ることになります(結婚前の戸籍の筆頭者(父親のことが多いといえます。)の氏になるため。)。結婚前の戸籍に戻る場合には、結婚前の氏を名乗る以外の選択肢はありません。
この場合の留意点としまして、戸籍は、そこに入っていた人全員が死亡や結婚・離婚などにより移動して一人もいなくなった場合には閉じられることになります。誰もいなくなった戸籍は「除籍」と呼ばれますが、除籍は動かすこと(除籍に入ったり出たりすること)ができません。そのため、結婚前に入っていた戸籍が除籍となった場合には、離婚してもその戸籍に戻ることはできません。この場合には、㋑の選択肢のみとなります。

※ややこしいのですが、「除籍」という言葉は二つの使われ方をします。
一つは、上で述べたとおり、戸籍に入っている人全員が、死亡や結婚・離婚などによって移動し、誰もいなくなった戸籍自体のことを指します。
もう一つは、死亡や結婚・離婚などにより戸籍から出ていくことを指し、「結婚によって、親の戸籍から除籍になった」という使われ方です。
 
㋑自分ひとりの戸籍を新たに作成する場合も、何もしなければ結婚前の氏に戻ったうえで戸籍が作成されることになります。ただし、離婚した後も婚姻中の氏のままでいたい場合などは、役所に対して「離婚の際に称していた氏を称する届」という届出を提出することで、引き続き婚姻中の氏を名乗ることができます(「婚氏続称」といいます。)。婚氏続称を希望する場合には結婚前の戸籍に戻ることはできませんので、注意が必要です。
 

2-2. 離婚後の子どもの戸籍

さて、難しいのが、離婚した後の子どもの戸籍です。まず、親権と戸籍は異なる制度であるため、子どもは当然には親権者の戸籍に入りません。
夫婦の離婚後に何もしなければ、子どもは婚姻中の戸籍に入り続けることになります。したがって、父母が婚姻していた時の氏をそのまま名乗り続けることになります。そのため、筆頭者でない方が子どもの親権を取得して子どもと同居する場合であっても、子どもについて戸籍上の手続を行わなければ、親権者と子どもの氏が異なっているという事態が生じることになります。
このような事態を避けるために、実際には、親権者と子どもは同じ戸籍に入ることが多いといえます。そのためには手続が必要となるため、パターンごとに解説します。
 
 

(a)婚姻時の筆頭者が親権者となる場合
この場合には、特に手続は不要です。婚姻時は、筆頭者と配偶者と子どもが同じ戸籍に入っていましたが、離婚届の提出によって(元)配偶者がその戸籍から出ていくことになります。婚姻時の戸籍には親権者となった筆頭者と子どもが残ることになりますが、同じ戸籍のため、苗字の不一致などは起こりません。
また、(元)配偶者は、婚氏続称をしなければ結婚前の苗字に戻ることになりますが、親権者ではなく同居もしていなければ、子どもとの苗字の不一致はあまり問題とならないことが多いかもしれません。
 
 
(b)婚姻時に筆頭者でなかった者が親権者となる場合で、婚姻前の氏に戻る場合
この場合、離婚届の提出によって婚姻時の戸籍から出ていくのは、まずは筆頭者でなかった者のみとなります。
そして、戸籍から出ていく場合には、㋐結婚前の戸籍に戻るか、㋑新たに自分ひとりの戸籍を作成するかを選ぶ必要があることを前述しました。もっとも、戸籍から出ていく方が親権者である場合には、通常㋑を選択することになります。
※㋐の場合は、典型的には親が筆頭者の戸籍に戻ることが想定されますが、この場合には留意が必要です。前述したとおり、戸籍に入れるのは筆頭者夫婦以外には、夫婦の子どものみとなります。すなわち、親権者が親の戸籍に戻っても、親権者の子どもは同じ戸籍に入ることはできません。
この場合に、子どもが親権者と同じ戸籍(氏)に入るためには、親権者が親の戸籍から分籍しなければなりません。すなわち、親権者は、婚姻時の戸籍→(離婚により)親の戸籍→分籍して自分ひとりの戸籍→その戸籍に子どもを入れる、という順を追うことになりますが、これはあまりに煩雑です。

㋑の場合には、まずは離婚届の提出によって、筆頭者でなかった者が単独で新たな戸籍を作成します。この際に、前述した「婚氏続称」の手続を行わなければ、新たな戸籍は婚姻前の氏で作成されることになります。
その後、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可申立て」という手続を行い、裁判所の許可を得たうえで、「入籍届」を役所に提出すると、子どもを同じ戸籍に移すことができます。
 
 
(c)婚姻時に筆頭者でなかった者が親権者となる場合で、婚氏続称をする場合
筆頭者でなかった者は、離婚届の提出によって婚姻時の戸籍から出ていくことになりますが、離婚後に婚氏続称を選択する場合は、結婚前の戸籍に戻るという選択肢はありません。結婚前の戸籍に戻ると、強制的にその戸籍の筆頭者の氏になるためです。
したがって、婚氏続称を選択した場合には、新たに自分ひとりの戸籍を作成することになります。
その後、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可申立て」を行い、裁判所の許可を得たうえで、「入籍届」を役所に提出すると、子どもを同じ戸籍に移すことができます。
※細かい話ですが、「子の氏の変更許可申立て」は、文字どおりに受け取ると、子の氏(苗字)を変更する場合に必要な手続きのようにも思えます。

例えば、田中太郎さん(夫)と鈴木花子さん(妻)が結婚し、夫の氏である田中姓を名乗っているときに一郎さん(子ども)が生まれた場合を考えてみます。この場合、一郎さんの苗字は、父母が結婚している間は田中となります。その後、太郎さんと花子さんが離婚し、一郎さんの親権を花子さんが取得、花子さんは婚氏続称を選択したとします。この場合、田中太郎さんを筆頭者とする婚姻時の戸籍には田中太郎さんと田中一郎さんが入っており、花子さんは、単独で田中花子さんの戸籍を作成することになります。
さて、このケースにおいて、花子さんが一郎さんを自身の戸籍に移したいと考えた場合、どのような手続を行う必要があるでしょうか。
結論から言うと、この場合にも家庭裁判所に対して「子の氏変更許可申立て」を行うことになります。一郎さん目線で見ると、田中姓から田中姓になるため、氏は変更されていないようにも思えます。もっとも、戸籍上は、「(太郎さんの氏としての)田中」と、「(花子さんの氏としての)田中」は別の氏であると考えられています。上記のケースだと、一郎さんは、同じ田中姓でも、「太郎さんの田中」姓から「花子さんの田中」姓に変わるため、やはり「子の氏の変更申立て」が必要となります。
戸籍上は、戸籍が異なれば同じ苗字であっても異なる氏ということになり、また、子どもの戸籍を移す手続が「子の氏の変更許可申立て」ということができます。

さて、これまで戸籍のルールを述べてきましたが、ケースごとの基本的な変遷は以下のとおりです。
(a)生涯未婚の場合
※(生まれる前)両親が結婚した際に、両親のみの戸籍Aが作成される
①生まれた際に、両親の戸籍Aに入る
②そのまま死亡まで戸籍Aに入り続ける
②’分籍して自分ひとりの戸籍Bを作成する
 
(b)結婚して離婚しなかった場合
※(生まれる前)両親が結婚した際に、両親のみの戸籍Aを作成
①生まれた際に、両親の戸籍Aに入る
②結婚する際に、両親の戸籍Aを抜け、結婚相手と新たに戸籍Bを作成する
③結婚相手との間に子どもが生まれた場合には、子どもは戸籍Bに入る
④そのまま死亡まで戸籍Bに入り続ける
 
(c)結婚して離婚した場合
※(生まれる前)両親が結婚した際に、両親のみの戸籍Aを作成
①生まれた際に、両親の戸籍Aに入る
②結婚する際に、両親の戸籍Aを抜け、結婚相手と新たに戸籍Bを作成する
③結婚相手との間に子どもが生まれた場合には、子どもは戸籍Bに入る
④離婚をした際に、自身が戸籍Bの筆頭者でない場合には、戸籍Bを抜ける
※この場合には、新たに戸籍Cを作成するか、結婚前の戸籍Aに戻るかを選択
⑤子どもを戸籍Cに移す場合には、「子の氏の変更許可申立て」をして家庭裁判所の許可を得たうえで入籍届を提出する
※子供を戸籍Aに移すことはできない

④’離婚をした際に、自身が戸籍Bの筆頭者である場合には、相手が戸籍Bを抜ける(自身は動かない)
⑤’子どもは何もしなければ戸籍Bのまま
ということになります。

 

3. まとめ

本稿では、戸籍制度と離婚について解説してきました。戸籍は、氏が決まるなど日常生活と密接な関係がありますが、場合によっては非常に複雑です。
離婚を考える際には、併せて戸籍についても検討しておかなければなりませんが、これは信頼できる専門家や周囲のサポートを得ながら判断することが大切であるといえます。
是非一度弁護士法人KTGにご相談ください。
 

この記事の監修者

弁護士 本多 将大

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