- 特集
- 2025.11.28
共有名義(共同名義)の不動産の相続で知っておきたい法律と手続きのポイント
不動産を家族で所有している場合、「共有名義(共同名義)」になっていることがあります。
共有名義は、一見すると公平で安心なように思えますが、相続が発生した際には思わぬトラブルを招くことも少なくありません。
本コラムでは、弁護士の立場から、共有名義に関する基本知識と、相続時の注意点を解説します。
目次
1.そもそも共有名義とは?
共有とは、1つの不動産を複数人で共同所有している状態をいいます。
法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得することで、所有者の名前や権利関係を明らかにすることができます。まずは、所有する不動産が共有名義かどうかを確認してみましょう。
共有名義の場合、登記簿上は「共有者〇〇 持分2分の1」「共有者△△ 持分2分の1」といった形で、共同所有している人の名前とそれぞれの持分の割合が明記されています。
2.不動産が共有名義となる主なパターン
不動産が共有名義になるケースには、主に次のようなものがあります。
2-1.夫婦で住宅を購入した場合
ペアローンのように夫婦の双方が住宅ローンを組む場合、夫婦のそれぞれがローンの負担割合に応じて不動産を共有名義にすることがあります。
※ペアローンとは、1つの不動産に対し、夫婦もしくは親子のそれぞれが住宅ローンの契約者(借主)となる借り入れ方法です。
例えば、夫がローンの60%、妻が40%負担している場合、登記上も夫が60%、妻が40%という持分割合で登記をするケースがあります。
【注意点】
①共有名義にすると、夫婦のどちらかが亡くなった際に、その方の持分だけが相続財産となり、相続人間で複雑な権利関係が生じることがあります。
例えば、上記のケースの場合において夫婦に子が2人いた場合、夫が亡くなった際は、その持60%が相続財産となります。法定相続分によると、夫の財産は「妻1/2(330%)、子1/4(15%)、子1/4(15%)」の割合で分割されます(民法900条1号)。その結果、相続後の不動産の持分は、妻70%(40%+30%)、子15%(0%+15%)、子15%(0%+15%)となります。
②不動産の売却や贈与をする際は、共有者全員(すなわち夫婦双方)の同意が必要となります。そのため、夫婦のどちらかが不動産の売却や贈与に反対している場合には、話合いがまとまらず、いつまで経っても処分ができないおそれがあります。
2-2.相続により共有となった場合
不動産をお持ちの方が亡くなられた場合、相続人の間で、その不動産も含めた遺産分割協議が行われることになります。
この場合、1人の相続人が単独で不動産を相続することもありますが、複数の相続人の共有名義にすることもあります。
例えば、不動産を所有する父が亡くなり、子が2人でその不動産を共有する話合いが行われた結果、子がそれぞれ50%ずつの持分割合で不動産を相続し、登記をするケースです。
【注意点】
①共有名義の場合、不動産全体については、共有者(所有者)全員の同意がなければ、原則として売却や抵当権の設定といった重要な処分行為はできません。そのため、共有者間での意思の統一が難しく、売却や建替え、賃貸契約などをする際、相続人間で意見が対立する可能性があります。
②世代が進むごとに相続によって共有者が増えると、さらに意思の統一が困難になります。また、登記名義や財産管理が煩雑化してしまい、トラブルにつながる可能性があります。
3.共有名義の一方が死亡した時の相続手続き
共有者の一方が亡くなった場合、その方の持分のみが相続の対象となります。
そこで、下記では、共有者の一方が亡くなった場合における、不動産の相続手続きの流れについて見ていきましょう。
3-1.登記事項証明書を確認する
まず、亡くなった方が本当に不動産の共有者(所有者)だったのか、持分はいくらだったのかを確認する必要があります。
上記のとおり、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得することで、所有者の名前や権利関係を明らかにすることができます。
夫、妻、子2人の家族において、1つの不動産を夫婦それぞれが1/2ずつの持分で共有していたケースを例に考えてみましょう。
登記簿謄本を確認すると、「共有者〇〇(夫) 持分2分の1」「共有者△△(妻) 持分2分の1」といった形で、所有者の名前と所有権の割合が明記されています。
このケースにおいて夫が亡くなった場合、「夫の持分1/2」のみが相続財産となり、妻や子などの相続人に承継されます。
3-2.遺言書の有無を確認する
次に、遺言書があるか確認しましょう。
遺言がある場合には、原則として、その内容に従った相続をすることになります。遺言書の内容は、名義変更の方法や必要書類にも関わってくる重要な要素ですので、慎重に探しましょう。
また、遺言の書式が自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認が必要です。一方で、遺言書が公正証書で作成されていれば、検認は不要となります。
※検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日時点における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。なお、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
3-3. 遺産分割協議をする
遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
この協議において、不動産の共有持分についても誰がどのように取得するのかを明確にするため協議を行います。協議の結果は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名押印します。
この遺産分割協議書は、下記の名義変更に必須の書類の1つです。
※遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判に進むことになります。
3-4.不動産登記簿の名義変更
遺産分割協議がまとまれば、不動産登記簿の名義変更(相続登記)を行う必要があります。
名義変更とは、登記簿上の不動産の共有者(所有者)を、亡くなった方から相続人へ変更する手続きです。
※令和6年4月から相続登記は義務化されており、相続があったことを知った日から3年以内に手続きを行わなければなりません(不動産登記法第76条の2第1項)。
4.そのまま共有名義にしておくリスク
共有名義を放置すると、次のようなトラブルが生じやすくなります。
①売却や建替えが進まない
共有者全員の同意が必要なため、意見が合わないと不動産を処分することができません。
②相続の連鎖で権利関係が複雑化
世代を経るごとに共有者が増え、連絡や合意の形成が困難になります。
③固定資産税の負担トラブル
共有者の間で支払いの割合をめぐる争いが生じることもあります。
実際の相談では、「相続人の1人が海外に住んでいて連絡が取れない」「他の共有者が売却に反対して話が進まない」といった事例が多く見られます。
5.相続に合わせて共有名義を解消するには?
上記のようなトラブルを回避するため、相続をきっかけに共有名義を見直すのも有効な選択肢です。
共有を解消する主な方法は次のとおりです。
5-1.遺産分割協議で単独名義に変更する
相続によって共有持分が発生する際に用いることが考えられる手段です。
相続人間で話合い、特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人へ代償金を支払う方法となります。
夫、妻、子2人の家族において、1つの不動産(時価1000万円)を夫婦それぞれが1/2ずつの持分で共有し、夫が亡くなったケースを例に考えてみましょう。
法定相続分によると、夫の1/2の持分は、妻1/4、子A1/8、子B1/の持分割合で不動産を共有することになります。もっとも、遺産分割協議により、妻が不動産を単独所有するという内容で話合いがまとまったとします。この場合、妻が不動産(時価1000万円)を単独所有する代わりに、子Aと子Bにそれぞれ時価の1/8に当たる125万円を代償金として支払うことなどが考えられます。
※代償金の支払いは、法定相続分とおりの割合で分割になることが多いですが、相続人間で同意がある場合は、法定相続分と異なる割合で分割することも可能です。
5-2.持分の買取
上記で述べたとおり、共有者は、自己の持分については各自が自由に処分することができます。そのため、当然ながら、他の共有者に自己の持分を売却することも可能です。
例えば、不動産を2人で共有している場合、一方の共有者は、他方の共有者からその持分を買い取ることで単独所有にすることができます。
ただし、これはあくまで話合いでまとまることを前提としているため、他方の共有者が持分を売りたくなかったり、買取価格に不満があったりする場合などは、買取りはできません。
5-3.共有物分割請求(裁判所での手続き)
では、話合いがまとまらなかった場合、ずっと共有状態のままかというと、そうではありません。話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所または地方裁判所に「共有物分割請求」を申し立てることが可能です(民法258条)。この場合、裁判所が不動産の現物分割や代償分割、換価分割などについて判断をします。
※現物分割とは、遺産や共有物をその形状や性質を変更せずに分割する方法です。土地の場合は、分筆という形式になります。
代償分割とは、共有者の1人が遺産や共有物を単独で取得する代わりに、他の共有者へ代償金を支払うという分割方法です。
換価分割とは、分割対象である遺産を売却して、金銭に換えてから共同相続人間で分割するという方法です。
6.まとめ
共有名義の不動産は、相続をきっかけに権利関係が複雑になりやすい財産のひとつです。手続きを怠ると、後々の世代に大きな負担を残すことにもなりかねません。
共有名義の相続や解消を検討する際は、登記や遺産分割、税務の知識を総合的に考慮できる弁護士・司法書士などの専門家に早めに相談することをお勧めします。
弁護士法人KTGでは相続に関するご相談を随時受け付けております。
弁護士のほか、司法書士、社会保険労務士、税理士、行政書士等、様々な資格保有者が在籍しているため、各士業間で案件を共有し、連携を図ることにより、ワンストップでご相談を受けさせていただきます。